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製品・サービスの普及をモデリングする”バスモデル”とは

製品・サービスの普及を表現する”バスモデル”
バスモデルは、1969年にFrank M. Bassによって提唱された統計モデルで、耐久消費財を中心とした新製品やサービスの普及を数学的にモデリングした手法です。さまざまな拡張研究により今なお進化を続けています。
このモデルの基本的な考え方は、『新製品の普及は「革新者(イノベータ)」と「模倣者(イミテータ)」という2種類の消費者によって進む』というものです。「革新者」は、その製品・サービスやブランドが好きで周りの意見を気にせず自ら購入を決めるタイプです。一方、「模倣者」は、周囲の感想や反応を見てから行動する慎重タイプです。
バスモデルは、ふたつの異なる行動パターンを取り入れ、新製品が市場にどう広がるかを数式で表現します。
バスモデルを使うことで、「どの時点で売り上げがピークに達するのか」や「どのタイミングから製品の普及度は鈍化してくるのか」といったシミュレーションが可能になります。これにより、初期のプロモーションに予算を割くべきか、もしくは後半に予算を割くべきか、戦略を練るヒントを得ることができます。
製品の普及に関する理論はバスモデル以外にも代表的な2つの手法が存在し、ロジャースのイノベータ理論やリードフロスト拡散モデルが挙げられます。バスモデルを含め、製品の普及理論を駆使することで、市場投入のタイミングやプロモーション施策など、マーケティング活動において定量的な根拠に基づいた判断ができるようになります。
バスモデルを使うことでわかるようになること
バスモデルを活用することで、新製品が、いつ普及のピークを迎え、いつ衰退期を迎えるのかを把握することができます。
また、導入期、成長期、成熟期に合わせた広告プランニングにも利用することができるため、バスモデルはマーケティングと相性の良い手法として知られています。
1.新製品やサービスのライフサイクルの推定を定量的に行う
2.広告やプロモーションの最適な量とタイミング

当サイトの運営会社であるデータアナリティクスラボ株式会社は、データサイエンティストのプロフェッショナルサービスを提供しています。バスモデルによる分析実績も多数ございますのでお気軽にご相談ください。
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バスモデルの中身
基本的な数式と、それがどのような意味を持つのかを説明します。
日本語で表現すると次のようになります。
$$ある製品の未購入者のうち t 期に購入する人の数 = 革新者の数 + 模倣者の数$$
- 革新者=未購入者のうち、t期の1時点前までに既に購入した人の影響を受けないで購入する人数
- 模倣者=未購入者のうち、t期の1時点前までに既に購入した人の影響を受けて購入する人数
数式で表現すると以下のようになります。
$$n(t) = p \big(m – N(t-1)\big) + q \frac{N(t-1)}{m} \big(m – N(t-1)\big)$$
数式 | 意味 |
---|---|
\(n(t)\) | 時点\(t\)における新規購入者数 |
\(N(t-1)\) | \(t-1\)期までに既に購入した人の合計数 |
\(m\) | 潜在市場規模 |
\(p\) | 革新者(イノベータ)を調整する係数 |
\(q\) | 模倣者(イミテータ)を調整する係数 |
上記のとおり、バスモデルにはp、q、mという3つの未知パラメータが含まれています。pとqはそれぞれ非負の定数(マイナスにならない定数)で、mは新製品を初回購入する最終的な人数の合計を表します。この未知パラメータを推定することで、数期の売上データから、その後の普及の仕方を予測することが可能となります。
次に、バスモデルで表現される製品の普及カーブについて説明します。
初期段階では、革新者が普及を牽引し、購入者が増えるにつれて口コミが広がると、その影響を受ける模倣者が普及を加速させます。最終的には市場が飽和し、新規購入者の数は減少していきます。
冒頭で、革新者は「製品・サービスやブランドが好きで周りの意見を気にせず自ら購入を決めるタイプ」と説明しましたが、このタイプの人たちは製品やサービスの情報を得て自ら判断する人たちであるため、企業からの直接的なアプローチが可能です。つまり、「企業からの直接的なマーケティング活動に反応するのが革新者」とも言えます。この革新者に加えて模倣者と潜在市場規模が決まると、その製品の普及の様子は、下図のようなカーブを描いて飽和していきます。

バスモデルを使った分析の流れ
次に、バスモデルを用いた分析の手順について説明します。
バスモデルの分析には、以下のようなデータが必要です
- 時間経過ごとの販売データ
新製品導入後数期の販売数量や売上を時系列(例:週単位、月単位)で記録したデータ。- 累積販売数(例:製品の発売からの総販売数)
- 単期間の販売数(例:各週ごとの販売数)
- 市場に関する情報
潜在市場規模や市場の成熟度に関する事前情報がある場合、モデルの適合精度向上に役立ちます。
日付 | 売上(千万円) | 累積売上(千万円) |
---|---|---|
2025/01/01 | 5.8 | 5.8 |
2025/02/01 | 5.2 | 11.0 |
2025/03/01 | 6.1 | 17.1 |
︙ | ︙ | ︙ |
バスモデルのパラメータは、以下の方法で推定されます
- 最小二乗法(OLS)
累積販売数や単期間販売数に基づき、回帰モデルを適合させます。 - 非線形最小二乗法(NLS)
バスモデルの非線形性を反映し、非線形回帰でパラメータを推定します。 - ベイズ推定
事前分布と事後分布に基づくパラメータ推定を行います。外部要因の影響を考慮する場合にも有効です。
推定されたパラメータとモデルの挙動を解釈します。
- 革新者係数(p)と模倣者係数(q)の関係
- pの影響が強い場合:製品の普及が革新者主導で進むケース。短期間でピークに達しやすい。
- qの影響が強い場合:模倣効果が強く、普及が緩やかに進むケース。
- 市場規模(m)
推定された市場規模が現実的かを確認します。市場の特性や外部データと照らし合わせて妥当性を検証します。
上記のパラメータなどを含めた推定モデルから、売上ピーク時期や普及の終息時期を予測し、販売戦略の計画に活用します。


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ビジネスでの活用例
次に、バスモデルのビジネス活用例について紹介します。
- 1.市場の成長パターンと、製品ライフサイクルの理解
-
バスモデルでは、製品が市場に浸透するパターンを、革新者(イノベータ)と模倣者(イミテータ)の2つの要素を組み合わせて説明します。
それぞれの成長パターンを理解することで、市場の成長が早い段階でピークに達するか、あるいは長期間にわたって成長するかが分かります。つまり、「普及のピークがいつ訪れるのか」と「普及の速度はどれくらいか」を推定することができます。
これにより、売上のピーク時期を見越したプロモーション施策や、供給計画を設計することができます。また、普及のピークと速度の理解ができるため、新製品やサービスのライフサイクル推定を定量的におこなうことができます。
- 2.広告やプロモーションの最適な量とタイミング
-
革新者は、広告やメディアを通じて製品の存在を知り、自ら購入の意思を固める人々を指します。彼らは企業側からの情報発信やプロモーションの影響を受けやすく、マーケティング施策によってコントロールしやすい層といわれています。
一方、模倣者は、企業からの情報発信だけでは動かず、既に製品を購入した人々の体験談や市場全体の反応を確認してから、慎重に購入を決断する層といわれています。
これらの層の時系列的な変化を把握することで、製品の普及段階に応じた効果的なマーケティング手法を選択できるようになります。
例えば、初期段階では革新者をターゲットにした広告戦略を展開し、普及が進んだ段階では模倣者の意思決定に影響を与える口コミやレビュー施策を重点的に実施していく、などの施策が挙げられます。
バスモデルの注意点
バスモデルは新製品の普及を予測するための有力なツールですが、その使用にはいくつかの注意点があります。
これらの注意点を理解することで、バスモデルを効果的かつ、現実に即した形で活用をすることが可能になります。
以下では、バスモデルを使用する際に留意すべきポイントを整理します。
1. 一度きりの購入に限定
バスモデルは、新製品の「初回購入」に基づく普及を予測するためのモデルで、主に耐久商材を対象とした分析に利用されます。そのため、繰り返し購入される消費財や更新購入を含む製品には適用できません。
2. 市場規模は固定
バスモデルでは、市場規模も推定パラメーターとして設定されます。しかし、これは導入時点で製品の潜在市場規模が固定され、その後変化しないという仮定に基づいています。現実には、製品ライフサイクルの中で市場規模が拡大したり縮小したりすることがあるため、この仮定が予測精度に影響を与える可能性があります。
3. データの量とタイミングの影響
バスモデルの推定には十分なデータ量が必要です。しかし、以下のようなデータに関するジレンマがあります。
- 立ち上がり期のデータが少ない場合
新製品導入直後はデータが不足しがちです。少量のデータだと、推定値が不安定になり、信頼性が低下します。 - データが揃う頃にはモデルの必要性が薄れる場合
販売が安定し、十分なデータ量になる段階では、モデルを使わなくても市場傾向が見えるため、モデルの適用意義が薄れる可能性があります。
このジレンマは、新製品導入後の早期段階での予測が必要とされる状況において特に顕著なため、バスモデル以外の手法も用いて分析を検討する必要が生じることもあります。
4. 外部要因を考慮していない
バスモデルは、価格、広告、景気、所得などの外部環境の影響を考慮していません。これらの要因はモデルの推定パラメータに内包される形となるため、影響を個別に評価することができません。その結果、新製品の普及における販売戦略や市場環境の影響を分析したい場合には、バスモデル単体ではなく、パネルデータを用いた時系列分析や行動の意思決定を予測する離散選択モデルなどとの併用によって対応することがあります。
まとめ
ここまで、新製品やサービスの普及を数学的に表現し、販売予測やマーケティング戦略の立案に役立つバスモデルを見てきました。「革新者」と「模倣者」という2種類の消費者の行動を考慮することで、普及のピーク時期や速度を定量的に把握することができます。これにより、企業は市場投入の適切なタイミングを見極め、効果的なプロモーション施策を設計することが可能になります。
特に、バスモデルを活用することで、初期の広告投資を積極的におこなうべきか、あるいは後期の口コミ効果に期待して予算配分を調整すべきかといった判断がデータに基づいておこなうことができます。さらに、バスモデルは個別のマーケティング施策に対する最適化から事業予算配分など組織的な戦略に対しても一部活用することができます。
しかし、バスモデルには「初回購入に限定」「市場規模が固定」「データ量の影響を受けやすい」「外部要因を考慮しない」などの注意点もあります。バスモデルは、単独で完璧な予測を提供するものではありませんが、市場動向を定量的に捉え、戦略の方向性を決める上で有用な手法です。
バスモデルの特性や注意点を踏まえた、一歩深い分析の役に立てれば幸いです。
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