Meridianとは?Googleの新MMMを徹底解説!

目次

Meridianとは

2024年3月に、Googleが新しく「Meridian」というMMM(マーケティング・ミックス・モデル)を発表しました。MMMとは、過去の広告支出や売上を基にマーケティングの効果測定、予算配分の最適化をすることができます。MMMについて詳しく解説した記事もございますの、ぜひご覧ください。

あわせて読みたい
MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)とは? MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)は、マーケティング施策の影響度合いを定量的に分析するための時系列分析の手法です。MMMを用いて分析することで、KPIに応...

GoogleはLightweight MMMというライブラリをオープンソースで公開しており、それが更新される形となります。Meridianが一般公開されると、LMMMは廃止する予定とのリリースがされています。(2024年7月末現在)

LMMMの大きな特徴であった地理データに強いという特性を引き継ぎつつ、Meridianではさらに詳細なデータ分析が可能になりました。

お気軽にご相談ください!

当サイトの運営会社であるデータアナリティクスラボ株式会社は、データサイエンティストのプロフェッショナルサービスを提供しています。MMMに関する実績も多数ございますのでお気軽にご相談ください。

ご相談・お問い合わせはこちらから

これまでのMMMとの違い

Google社LightweightMMMやMeta社Robynなどこれまでのマーケティング・ミックス・モデリング(MMM)手法との違いから、Meridianの利点を説明します。

特徴/項目MeridianLightweigh MMMRobyn
開発元GoogleGoogleMeta (旧Facebook)
主な特徴とメリットシンプル
軽量
カスタマイズ可能
多様な変数に対応可能
シンプル
軽量
カスタマイズ可能
自動で高度な最適化
包括的な解析が可能
デメリット高度な統計学やエンジニアリング力が必要高度な統計学やエンジニアリング力が必要カスタマイズがしにくい
対象ユーザーエンジニア
データサイエンティスト
エンジニア
データサイエンティスト
マーケター
ビジネスアナリス
アナリスト
設計思想多様な変数と因果推論に対応シンプル
カスタマイズ性を重視
高度な機能統合
使いやすさを重視
使用理論ベイズ回帰モデルベイズ回帰モデルベイズ回帰モデル
線形回帰
カスタマイズの自由度非常に高い高い低い
多くの機能がデフォルト設定
機能の多様性必要最小限の機能
ビジネス知見を組み込める
必要最小限の機能複数モデルの統合や最適化
レポート生成
Meridian / Lightweight MMM / Robyn 比較表

Google-LightweightMMMとの違い

①:共通のベースラインをもつ期間を指定することができる

ベースライン\(mu_t\)とは、モデルに傾向と季節性コンポーネントを与える時変切片です。

以前までは、マーケティングベースラインは観測された期間によってバラバラの値をとっていました。そのため、季節ごとの特有のデータ量といった特定の期間でのデータに相関をとることが困難でした。Meridianでは、ユーザーが共通のベースラインをもつ期間を指定することができます。

時期ごとにバラバラのベースラインをもつ(LMMM)
季節(任意の期間)ごとに一定のベースラインをもつ
全期間で一定のベースラインをもつ

共通のベースラインをもつ期間が長くなると、時間効果の推定値の分散が減少します。それとは逆に、時期によってベースラインが変化すると時間効果の推定値の偏りが減少します。

時間がメディアの影響とKPI(重要業績評価指標)との関係において重要な交絡因子である場合、時間の影響を正確に推定することが重要です。しかし、時間の影響をどう扱うかによって、メディアの因果効果を推定する際のバイアス(推定のズレ)と分散(推定の不安定さ)の間でトレードオフが発生します。つまり、時間の影響を単純に扱うと推定が偏りやすくなり、複雑に扱うと推定が不安定になります。

簡単な方法で時間の影響を考慮すると、時間の影響を見逃してしまいがちです。例えば、季節性や特定のイベントの影響を考慮しないと、ある広告キャンペーンの効果を過大評価してしまうかもしれません。一方で、時間の影響を詳細にモデル化すると、これらの影響を正確に捉えられますが、モデルが複雑になりすぎて、新しいデータに対する予測が不安定になるリスクがあります。

②:Reach&Frequencyが説明変数に組み込まれている

今までの説明変数に新しくリーチ(Reach)、フリークエンシー(Frequency)が加わりました。

  • リーチ(Reach):広告がどれだけの人に届いたか
  • フリークエンシー(Frequency):広告が同じ人に何回届いたか。

今までのMMMはインプレッション数(広告が表示された総回数)を入力変数としていました。しかし、これには「インプレッションだけでは、同じ人が複数回広告を見る可能性を考慮できない」という問題点が存在します。

リーチ、フリークエンシーを用いることで、先ほどの問題点を解決できるようになるメリットがあります。

  • より正確に広告の効果を評価できる。
  • 広告の表示頻度に基づいてキャンペーンの最適化が可能。

以上の特徴を反映したモデル式の該当部分は以下の式になります。

$$\sum^N_{n=1} \beta^{(rf)}_{g,n} \mathcal{Adstock} \bigg( \Big\{ r_{g,t-s,n} \cdot \mathcal{Hill} \Big(f_{g,t-s,n}; ec^{(rf)}_n, \mathcal{slope^{(rf)}_n} \Big) \Big\}^L_{s=0}; \alpha^{(rf)}_n \bigg)$$

  • \(r_{g,t-s,n}\) (リーチ):広告に接触した重複のない個人の数を示します。
  • \(f_{g,t-s,n}\) (フリークエンシー):インプレッション数の合計をリーチ数で割ったもの。広告が届いた人々の平均的な接触頻度を示します。

Lightweight MMMは説明変数としてインプレッション数(\(x\))を使用していました。インプレッション数とは広告が表示された合計の回数を指し、次の式で表すことができます。

$$x_{Impression}=r_{Reach}*f_{Frequency}$$

これまで使用されていたインプレッション数(\(x\))を、リーチとフリークエンシーに分解し、それぞれHill関数・Adstock関数に組み込んだ形となります。これにより、広告効果をより細かく考慮した分析が可能になります。

③:ビジネス知見を事前分布として、モデルに反映しやすい

ビジネス知見を事前分布に組み込む方法として、各メディア売上における回帰式の回帰係数\(\beta_m\)に組み込む方法がとられてきました。Meridianでも、それは変わりません。

LMMM

$$\beta_{m}\sim \mathcal{HalfNormal(medior\_prior)}$$

青線:コスト低、オレンジ線:コスト中、緑線:コスト高

グラフの通り、コストが高くなるほど、回帰係数\(\beta_m\)は大きい値をとりやすくなります。

Meridian

Meridianは\(ROI_m\)をパラメータとして再パラメータ化することができます。

$$\begin{align*}\beta_m  &= \frac{ \mathcal{ROI_m} \sum_{g,t} \tilde{x}_{g,t,m} – \eta_m\sum_{g,t} Z_{g,m} M_{g,t,m}}{\sum_{g,t}M_{g,t,m}}\\&= \frac{\mathcal{IncrementalSales_m} – \eta_m \sum_{g,t} Z_{g,m} M_{g,t,m}}{\mathcal{\sum_{g,t} HillAdstock} \Big(  \{x_{g,t-s,m} \}^L_{s=0} ; \alpha_m, ec_m, \mathcal{slope}_m \Big)} \end{align*}$$

用語の解説
  • \(ROI_m\):return of investmentの略。投資収益率、投資によって得られた利益の投資額に対する割合を示します
  • \(M_{g,t,m}\):ある地域、ある時間ごとの特定のメディアのKPI。
  • \(Z_{g,m}\):地域ごとのばらつき
  • \(\eta_m\):正則化項、すべてのチャネルに対して均等な正則化を適用することで、モデルの収束や適合性を向上させることができます。

用語の解説を踏まえるとMeridianの式は以下のように解釈できます。

$$\begin{align*} \beta_m&= \frac{増分収益ー正則化項×地域間のメディアのKPI格差}{あるメディアの総KPI}\end{align*}$$

Meridianは以前と同様に事前分布として、あまり情報を持たない\(\beta_m\)パラメータか\(ROI_m\)パラメータを設定するか選択することができます。\(ROI_m\)をパラメータとして再パラメータ化することで事前情報(インクリメンタリティ実験、業界ベンチマーク、その他のドメイン知識など)を組み込んだ予測が可能になります。

Meta-Robynとの違い

Meta-Robynは、Meta(旧Facebook)が開発したオープンソースのマーケティング・ミックス・モデリング(MMM)ツールです。

特徴の違い

Meridian
  • 開発元: Google
  • 言語: Python
  • 特徴:
    • ベイズモデリング: データの不確実性や変動に対処する柔軟なフレームワーク。下のようにメディア効果の分布が得られます。
    • オープンソース: 自由に使用、修正、貢献が可能で、活発な開発コミュニティが存在。
    • バックエンド: Numpyroを使用。
    • 利点: 高精度な予測と分析が可能。
Robyn MMM(RMMM)
  • 開発元: Meta
  • 言語: RとPython
  • 特徴:
    • 勾配ブースティング:より複雑で非線形な関係をモデル化。
    • ツールと技術: Rをメインに、FacebookのNevergradライブラリやProphetライブラリを使用。
    • ハイパーパラメータ最適化: モデルを数千回実行して最適なパラメータを見つける。
    • 利点: データ分析と視覚化に優れたRのツールを活用。

アウトプットの違い

LightweightMMMのアウトプット
  • マーケティング活動の影響評価: 各マーケティング活動が売上に与える影響や投資収益率(ROI)の推定値を提供します。
  • マーケティングチャネルの効果: テレビ、ラジオ、デジタル、印刷など、各チャネルの効果に関するインサイトを提供します。
  • シミュレーション: マーケティングミックスの変更がどのように影響するかをシミュレートできます。
Google – Lightweight MMM における予算配分の出力例
Robyn MMM(RMMM)のアウトプット
  • 詳細な影響評価: 認知、検討、コンバージョンなど消費者の旅の各段階におけるマーケティング活動の影響を推定します。
  • チャネルの重要性: 各マーケティングチャネルの相対的な重要性に関するインサイトを提供します。
  • シナリオベースのシミュレーション: 異なるシナリオに基づいてマーケティングミックスの変更がどのように影響するかをシミュレートします。
  • プロフェットライブラリの使用: トレンド、季節性、イベント、曜日を区別するためのプロットを提供します。
Meta – Robyn における予算配分の出力例
Meridianのアウトプット

※執筆時点ではMeridianのパッケージは使用できておりません。使用開始次第、アウトプットを掲載いたします。

お気軽にご相談ください!

当サイトの運営会社であるデータアナリティクスラボ株式会社は、データサイエンティストのプロフェッショナルサービスを提供しています。MMMに関する実績も多数ございますのでお気軽にご相談ください。

ご相談・お問い合わせはこちらから

注意点

特徴やメリットがある一方で、以下の点に注意が必要です。

  • データ収集
  • モデル解釈の難易度
  • 適切なMMMの選択

それぞれ簡単に説明します。

①データ収集

Meridianは、Lightweight MMMやRobynと比較して詳細なデータ収集が必要です。特にリーチとフリークエンシーを使用する際は、それぞれを取得しなければなりません。そのため、これまでのデータ収集方法を変更しなければならない可能性があります。結果として、これまでのデータ収集よりも難しくなることが考えられます。

②モデル解釈の難易度

モデルの解釈には、ランダム効果・時変切片・因果推論など、専門的な知識が求められます。多くのビジネスマンが共通して使えるツールとはなりにくく、データサイエンティストなど専門家の支援や助言に加え、豊富なドメイン知識を持った人材がディスカッションを重ねて、モデルの解釈をする必要があります。

③適切なMMMツールの選択

工数やデータアウトプットの要件を見極め、状況に応じてMeridian以外の適切なMMMを選択することが重要です。前述の表で示したように、Meridian以外のMMMツールにもそれぞれメリットとデメリットがあります。特にMeridianの理論は非常に難解なため、理解やモデル構築に時間がかかったわりに満足のいく結果が得られないという結末に至る可能性があります。
ここまでで紹介したMMMツールの他にも、MMMツールは多数存在します。適切な選択するためには、これらのツールについての情報収集と評価は慎重におこなう必要があります。

今後の動向

現段階でLightweight MMMのような一般公開・一般利用はされていません。しかし、「アーリーエントリー」という形で今後徐々に提供が開始される予定です。(2024年7月末現在)

詳しくは上記のGoogleウェブサイトをご覧ください。

また、Meridianに関する詳しい公式情報については以下をご参照ください。

https://developers.google.com/meridian/docs/basics/about-the-project

参考文献など

  • https://developers.google.com/meridian/docs/basics/about-the-project(Google Meridian開発者用ページ)
  • Yunting Sun, Yueqing Wang, Yuxue Jin, David Chan, Jim Koehler, Google Inc. : Geo-level Bayesian Hierarchical Media Mix Modeling, 2017
  • Yingxiang Zhang, Mike Wurm, Alexander Wakim, Eddie Li, Ying Liu, Google LLC. : Bayesian Hierarchical Media Mix Model Incorporating Reach and Frequency Data, 2023
  • Yuxue Jin, Yueqing Wang, Yunting Sun, David Chan, Jim Koehler, Google Inc. : Bayesian Methods for Media Mix Modeling with Carryover and Shape Effects, 2017
お気軽にご相談ください!

当サイトの運営会社であるデータアナリティクスラボ株式会社は、データサイエンティストのプロフェッショナルサービスを提供しています。MMMに関する実績も多数ございますのでお気軽にご相談ください。

ご相談・お問い合わせはこちらから

研究記事なども執筆しています

データアナリティクスラボ
論文紹介:Discovering Preference Optimization Algorithms with and for Large Language Models | データ... Indexはじめに論文の概要LLMの選好最適化についてLLMの選好最適化とはどのように学習するのかデータセットのイメージ学習イメージ論文の背景となる課題意識論文での提案手...
データアナリティクスラボ
進化的モデルマージの理解と実装 | データアナリティクスラボ IndexはじめにLLMのモデルマージの概観LLMのモデルマージの位置づけLLMのモデルマージとはLLMのモデルマージのアルゴリズムLLMのモデルマージの種類TIESについてDAREについ...
データアナリティクスラボ
vLLMの仕組みをざっくりと理解する | データアナリティクスラボ IndexはじめにvLLMとはvLLMの仕組み従来の推論プロセスにおける課題PagedAttention新しいKVキャッシュ管理手法効率的なメモリ共有バッチ処理についてStatic Batching(静的...
データアナリティクスラボ
量子フーリエ変換をていねいに解説 | データアナリティクスラボ Indexはじめに1. 量子フーリエ変換の計算1.1. 量子フーリエ変換の導入1.2. 量子フーリエ変換の導出2. 量子フーリエ変換を行う量子回路2.1. 量子ゲートの導入2.2. 量子回路...
よかったらシェアしてね!

この記事を書いた人

Data Analytics Magazine 編集部です!
ビジネスとデータサイエンスをつなぐメディアとして、日々情報発信いたします!

目次